東京都のカスハラ防止対策奨励金40万円:
企業の申請要件は?

東京都はカスタマーハラスメント防止対策推進事業の一環として、2025年6月30日から、中小企業向けに40万円の奨励金を支給する制度の申請受付を開始しました。
本記事では、同制度の申請に必要な要件について、詳しく解説します。
目次

1. 2025年4月から「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行
2025年4月1日、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されました。この条例は2024年10月に制定され、カスハラの禁止、防止理念、各主体の責務などを定めた全国初の包括的な条例です。
条例では、カスハラを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義しています。「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはいけない」と明記されていますが、正当なクレームを妨げない配慮も求められています。
参考:東京都「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」
2. 東京都の「カスハラ防止奨励金」とは?
2025年4月に施行される「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」に合わせ、東京都では「カスタマーハラスメント防止対策推進事業」が開始されました。同事業で示されたのが、中小企業のカスハラ対策を支援するための奨励金制度です。この奨励金は、幅広い業種の中小企業がカスハラ対策に取り組むきっかけとなることが期待されています。
奨励金の支給額は定額40万円で、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例施行日(2025年4月1日)以降にカスハラ対策に関するマニュアルを整備し、実践的なカスハラ防止対策を行った企業が対象となります。
なお、2005年度の東京都予算案では、支給規模は3年間で10,000社と示されました。
出典:東京都「令和7年度(2025年度)東京都予算案の概要 主要な施策」
※本記事では詳しく取り扱いませんが、東京都のカスタマーハラスメント防止対策推進事業では「団体向け奨励金」と「団体向け補助金」も用意されています。
申請期間と受付件数
2025年度における奨励金の申請受付は年3回予定されており、それぞれ以下の期間で実施される予定です。
- 第1回:2025年6月30日(月)から8月8日(金)17時まで
- 第2回:奨励金制度の公式HPで公表予定
- 第3回:同上
ただし、1回あたりの受付件数の上限は1,000件が予定されています。予定件数を超えた場合は期間中でも受付を終了する可能性があるため注意が必要です。
申請対象事業者
企業向け奨励金の支給対象となるのは、都内の従業員300人以下の中小企業です。具体的には、申請日時点で以下の要件をすべて満たしている必要があります。
▼対象事業者の要件
- 常時雇用する従業員の数が300人以下の企業であること
- 都内で事業を営む中小企業等または個人事業主であること
- 東京都政策連携団体の指導監督等に関する要綱(平成31年3月19日付30総行革監第91号)に規定する東京都政策連携団体、事業協力団体又は東京都が設立した法人でないこと
- 中小企業等の場合は都内に本店登記、または支店の事業所があること
- 個人事業主の場合は都内税務署へ開業届を提出していること
- 都内の事業所で継続的に1年以上事業を行っていること
- 都内の事業所で実質的に事業を行っていること
- 都税の未納がないこと
- 過去5年間に重大な法令違反等がないこと
- 民事再生法(平成11年法律第225号)、会社更生法(平成14年法律第154号)、破産法(平成16年法律第75号)に基づく申立・手続中(再生計画等認可後は除く。)、又は私的整理手続中など、事業の継続性について不確実な状況が存在していないこと
- 労働関係法令について遵守していること
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業、当該営業に係る「接客業務受託営業」及びこれらに類する事業を行っていないこと
- 暴力団員等(東京都暴力団排除条例(平成23年東京都条例第54号。)第2条第3号に規定する暴力団員および同条第4号に規定する家力団関係者をいう。)、暴力団(同条第2号に規定する力団をいう。)および法人その他の団体の代表者、役員または使用人その他の従業員若しくは構成員が暴力団員等に該当する者でないこと
- 本奨励金をすでに受給(受給予定も含む)していないこと
- その他、財団理事長が適当でないと判断した場合は本奨励金の対象外とする
3. 東京都のカスハラ防止対策奨励金の受給に必要な3つの取り組み
東京都のカスハラ防止対策奨励金を受給するためには、次の3つの取り組みを行う必要があります。これらの対策は従業員を守るためだけでなく、企業としての信頼性向上や人材確保にもつながる重要な施策です。
- 取り組み1:カスハラ対策マニュアルの作成・周知
- 取り組み2:基本方針の社内・社外への周知
- 取り組み3:実践的な取り組みの実施
取り組み1:カスハラ対策マニュアルの作成・周知
奨励金の受給に必要な取り組みの1つ目は、カスハラ防止対策マニュアルの作成と周知です。すでに作成されている場合は、マニュアルの「改定」も取り組みとして認められます。
カスハラ対策マニュアルは、以下の必須項目をすべて含んでいなければなりません。
▼カスハラ対策マニュアルの必須項目
- カスタマーハラスメント対策に関するマニュアル作成の目的(「条例」についての言及、策定の背景や組織的な対応の必要性等)
- カスタマーハラスメントの定義
- カスタマーハラスメントに対する基本方針
- 顧客対応の考え方(心構え、クレーム初期対応、顧客等の権利の尊重等)
- カスタマーハラスメントへの対応(カスタマーハラスメント判断や対応フロー等)
- 社内体制整備(相談窓口の設置、研修実施、再発防止の取組等)
- 企業間取引での対応(カスタマーハラスメント防止の基本姿勢、取引先へのカスタマーハラスメント禁止等)
カスハラは個人レベル、現場レベルではなく組織で対応すべき問題であることから、企業として統一的な手引きを用意して備えることが不可欠です。マニュアル作成にあたっては、東京都や厚生労働省が公表している以下の資料を参考に、自社の実情に合わせた内容を盛り込むことが重要です。
- 東京都「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
- 東京都「カスタマーハラスメント対策マニュアル(ひな形)」
取り組み2:基本方針の社内・社外への周知
2つ目に必要な取り組みは、前述したカスハラ対策マニュアルの必須項目の1つである「3. カスタマーハラスメントに対する基本方針」を社内と社外に周知することです。
このうち、「社外」への周知については以下のような方法が想定されています。
▼社外への周知方法
- 店頭での掲示
- 自社HPでの掲示
- 顧客先への周知 など
なお、「カスタマーハラスメントに対する基本方針」には、例えば以下のような要素が含まれます。
▼基本方針で定める要素例
- カスタマーハラスメントに対する基本方針を定める目的
- 企業におけるカスタマーハラスメントの定義
- 社内におけるカスタマーハラスメントの対応
- 社外におけるカスタマーハラスメントの対応 など
取り組み3:実践的な取り組みの実施
カスハラ対策マニュアルの作成・周知、基本奉仕員の社内・社外への周知に加えて、カスハラを防止するための実践的な取り組みを実施することも奨励金受給の要件となっています。
具体的には、以下に示す3つの選択肢のうち、少なくとも1つを実施する必要があります。
- 選択肢1:録音・録画機能のある機器の整備
- 選択肢2:AIを活用したシステム等の導入
- 選択肢3:外部人材の活用
選択肢1:録音・録画機能のある機器の整備
カスハラ対策の基本となるのが、顧客とのやり取りを記録できる環境の整備です。東京都の奨励金制度では、「録音・録画機能のある危機を新たに整備したこと」が実践的な取り組みの1つに挙げられています。
具体的には、下記すべての要件を満たす必要があります。
▼要件
- 2025年年4月1日以降にカスハラ対策のために、録音・録画機器を新たに購入またはリース等の契約をしたこと
※契約の場合は契約期間が 6 か月以上であること
※録音・録画を主とした機器本体の整備であること - 1.で購入またはリース等の契約をした機器の運用ルールを策定したこと
※運用ルールには、盗聴、盗撮を疑われない対策を含むこと - 録音・録画環境整備について、社外に周知したこと
- 録音・録画環境の整備によりカスハラ対策が進んだこと
- 都内事業所に録音・録画環境を整備したこと
選択肢2:AIを活用したシステム等の導入
カスハラは直接対面する場だけでなく、電話やオンラインでのやり取りが主となる環境でも発生しやすい傾向にあります。そのため、「AIを活用したシステム等の導入」も選択肢の1つとされています。
この選択肢を採用する場合は、下記すべての要件を満たす必要があります。
▼要件
- 2025年4月1日以降にカスハラ対策のために、AIを活用したシステム等を新たに購入またはシステムサービス等の契約をしたこと
※契約の場合は契約期間が6カ月以上であること - 1.で整備したAIを活用したシステム等の運用ルールを策定したこと
- AIを活用したシステム等の導入について、社内に周知したこと
- AIを活用したシステム等の導入により、カスハラ対策が進んだこと
- AIを活用したシステムでカスハラ対策に活用していることが分かること
※導入したシステムについて、「AIが活用されていること」と「カスハラ対策に利用できること」が、いずれもパンフレットやHP等で記載が確認できること
※パンフレットやHPで確認できない場合には、「AIが活用されていること」と「カスハラ対策に利用できること」が分かる資料を提出すること - 都内事業所にAIを活用したシステム等を導入したこと
AIを活用したシステムを導入することで、従業員が直接顧客対応を行う機会が減少し、カスハラ行為を受ける可能性を物理的に回避することが可能になります。
選択肢3:外部人材の活用
「外部人材の活用」も実践的な取り組みとして認められる選択肢です。
外部人材を活用する場合は、下記の要件をすべて満たす必要があります。
▼要件
- 2025年4月1日以降にカスハラ対策のための外部人材と新たに契約したこと(下記A〜Cいずれか1つの契約を確認)
A:相談対応等の継続的な契約:カスハラ対策の相談対応等に関する外部人材との継続的な(6カ月以上の)契約(例:弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士、労働衛生コンサルタント、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)
B:社内研修等のためのスポット契約:カスハラ対策のための社内研修等に関する外部人材とのスポット契約(例:弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士、労働衛生コンサルタント、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)
C:警備会社との法人契約:カスハラ対策における警備体制を強化するための継続的な(6カ月以上の)契約 - 1.の外部人材の活用について、社内に周知したこと
- 外部人材を継続的に活用する場合(ア・ウ)は、運用ルールを策定したこと
- 外部人材の活用により、カスハラ対策が進んだこと
- 都内事業所を対象として外部人材を活用したこと
外部の専門家の視点を取り入れることで、社内だけでは気づきにくい課題の発見や、専門的な知見に基づいた効果的な対策の立案が可能になります。
4. 電話のカスハラ対策なら「DXでんわ」
今回は、東京都のカスハラ防止対策奨励金を受給するための要件を解説してきました。申請受付件数には上限があることから、同制度の利用を検討している企業は、早い段階からマニュアルの整備・周知と基本方針の周知、そして実践的な対策として活用できるシステム等の選定を進めておくのが望ましいでしょう。より詳しい申請要件や方法を確認されたい方は、カスタマーハラスメント防止対策推進事業の公式HPから「募集要項」をご確認ください。
なお、電話におけるカスハラ対策としてはメディアリンクが提供する「DXでんわ」がおすすめです。同製品は電話の受付や取次ぎを自動化するIVR(自動音声応答システム)で、以下のようなカスハラ対策に役立つ特長を持っています。
▼カスハラ対策に役立つ「DXでんわ」の特長(一例)
- 人が対応する前に、自動音声ガイダンスで録音する旨を伝達できる
→カスハラ行為の抑止力になる - 電話相手が吹き込んだ用件や通話内容を自動で録音し、テキスト化してくれる
→カスハラ行為の証拠として残せる - 24時間365日の自動応答と、担当部署への自動転送が行える
→待ち時間に対する相手のストレスを低減できる - 特定の番号を着信拒否設定できる
→カスハラ行為を繰り返す相手の電話を遮断できる
メディアリンクでは「DXでんわ」以外にも、AIを活用したボイスボットやチャットボットなど、カスハラ対策に役立つシステムを取り揃えています。自社に適したカスハラ対策をお探しの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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