カスハラ対策として求められる企業対応:
事前の備えから発生時の対応まで解説

近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な社会問題として注目を集めています。2025年6月には労働施策総合推進法が改正され、企業にカスハラ防止措置を講じることが義務化されるなど、対策の重要性が高まっています。
本記事では、カスハラの定義や該当行為、カスハラが企業と従業員にもたらす影響を解説しつつ、企業が取るべき対策について詳しくご紹介します。
目次
1. カスハラとは?
まずは、カスハラの基本的な定義と、具体的にどのような行為が該当するのかを理解しましょう。
カスハラの定義
カスハラとは、顧客や取引先などから受ける暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求などの著しい迷惑行為を指します。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、「顧客等からのクレーム・苦情のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。
重要なのは、すべてのクレームがカスハラに該当するわけではないという点です。商品やサービスへの正当な不満や改善要望は、企業にとって貴重なフィードバックです。カスハラと正当なクレームの違いは、以下に示す2つの観点で判断されます。
- 要求内容の妥当性があるか
- 要求を実現するための手段や態様が社会通念上相当か
カスハラに該当する行為
カスハラに該当する行為は、大きく分けて「要求内容が妥当性を欠く場合」と「要求の手段・態様が不相当な場合」の2つのパターンがあります。
▼要求内容が妥当性を欠く場合の例
- 企業の提供する商品・サービスに瑕疵や過失が認められないのにクレームを入れる
- 要求内容が商品・サービスと関係がない
▼要求の手段・態様が社会通念上不相当な場合の例
- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
- 威圧的な言動
- 土下座の要求
- 継続的で執拗な言動
- 拘束的な行動(長時間の拘束、居座り、監禁)
実際に企業が受けたカスハラの事例としては、長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム、理不尽な要求について繰り返し電話で問い合わせをする、大声での怒鳴り声や侮辱的な発言などが報告されています。こうした行為は、暴行罪や脅迫罪、威力業務妨害罪といった犯罪行為に該当する可能性もあります。
2. カスハラがもたらす悪影響
カスハラは、単なる接客トラブルではなく、従業員と企業の双方に深刻な影響を与える経営課題です。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)」によると、過去3年間にカスハラの相談があった企業の割合は27.9%にのぼります。
ここでは、カスハラがもたらす具体的な悪影響を確認しましょう。
企業への影響
カスハラは、企業活動に複数の側面から悪影響を及ぼします。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)」によると、カスハラに該当すると判断した事案があった企業は、以下の損害や被害を受けていることがわかります。
▼過去3年に顧客等から著しい迷惑行為で被った損害や被害(n=1,880)
- 通常業務の遂行への悪影響(63.4%)
- 労働者の意欲・エンゲージメントの低下(61.3%)
- 労働者の休職・離職(22.6%)
- 風評被害・信用失墜(9.8%)
- 訴訟負担(4.1%)
- 賠償負担(3.9%)
法的リスクの観点では、企業には労働契約法に基づく安全配慮義務があります。カスハラから従業員を守るための適切な措置を講じていない場合、従業員から損害賠償請求を受ける可能性があります。実際、市立小学校で保護者からのハラスメントに適切な対応をしなかったとして、市と県に賠償責任を負うと判断された事例も報告されています。
企業イメージへの影響も深刻です。SNSや口コミサイトでカスハラ対応が拡散されれば、企業の評判が急速に悪化します。カスハラ対策が不十分な企業は「働きやすい職場」として評価されにくく、優秀な人材の確保も困難になります。
従業員への影響
カスハラは従業員の「心身の健康」に直結する重要な問題で、以下のような影響を及ぼします。
▼カスハラを1度受けた場合の主な影響
- 怒りや不満、不安を感じた
- 仕事に対する意欲が減退した
▼カスハラを何度も繰り返し受けた場合の深刻な影響
- 眠れなくなった
- 通院や服薬が必要になった
- 入院や退職に至った
心身への影響は仕事のパフォーマンスに表れます。業務への意欲減退や集中力の低下が起こり、メンタルヘルス不調が継続すると、最終的には休職や離職につながります。カスハラへの恐怖から委縮してしまい、本来の能力を発揮できなくなる従業員も少なくありません。
従業員が「会社が自分を守ってくれない」と感じれば、企業への信頼は失われます。カスハラは個々の従業員の問題ではなく、組織全体で取り組むべき重大な課題なのです。
3. カスハラに関する法整備の動向
カスハラ対策は、これまで企業の自主的な取り組みに委ねられていましたが、被害の深刻化を受けて法整備が進んでいます。2025年6月には労働施策総合推進法が改正され、企業にカスハラ防止措置が義務付けられることになりました。
ここでは、法改正の内容と企業が知っておくべきポイントを確認しましょう。
労働施策総合推進法の改正
2025年6月4日、カスハラ対策を企業に義務付ける改正労働施策総合推進法が参議院本会議で可決・成立し、同年6月11日に公布されました。この改正により、カスハラ対策が事業主の「雇用管理上の措置義務」となります。
- 施行時期:公布日(2025年6月11日)から1年6か月以内に施行予定
- 対象となる事業主:労働者が1人でもいれば対象
この義務に違反した事業主は、報告徴求命令、助言、指導、勧告または公表の対象となります。なお、パワハラやセクハラと同様、企業への直接的な罰則はありませんが、対応を怠った場合には従業員から損害賠償請求を受けるリスクがあります。
企業の安全配慮義務
法改正以前から、企業には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があります。これは「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすべき」という義務です。
カスハラから従業員を守るための適切な措置を講じていない場合、この安全配慮義務違反として債務不履行責任が生じる可能性があります。法改正により、カスハラ対策は企業の法的責任としてより明確に位置づけられたといえます。
自治体のカスタマーハラスメント防止条例
全国の自治体でも、カスハラ防止条例の制定が進んでいます。2025年4月1日には、東京都、北海道、群馬県の3都道県と三重県桑名市でカスハラ防止条例が施行されました。
- 東京都: 2024年10月に全国初のカスハラ防止条例が成立し、2025年4月1日から施行されています。「何人も、あらゆる場においてカスハラを行ってはならない」と明記され、事業者が講じるべき措置として、方針の明確化、相談体制の整備、事後の対応などが示されています。
- 北海道: 2024年11月26日に条例が成立し、2025年4月1日から施行されています。東京都と同様の内容に加え、「北海道カスタマーハラスメント対策推進協議会」の設置や、事業者団体の責務も規定している点が特徴です。
- 群馬県: 2025年4月1日から施行されています。カスハラを「著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義し、事業者に防止措置を講じるよう努力義務を課しています。
- 三重県桑名市: 基礎自治体では初となるカスハラ防止条例が2024年12月4日に成立し、2025年4月1日から施行されています。全国初となる氏名公表措置を盛り込んでおり、市長の警告に対して改善が不十分な場合、行為者の氏名を公表できる事実上の制裁措置がある点が特徴です。
これら以外にも、愛知県や三重県が条例制定の方針を示しており、岩手県、栃木県、埼玉県、静岡県、和歌山県などでも検討が進んでいます。企業は、自社の拠点がある地域の条例動向を把握しておく必要があります。
4. 企業に求められるカスハラ対策
カスハラ対策は、事前の備え、発生時の対応、予防の3つの観点から総合的に取り組む必要があります。ここでは、各対策のポイントと実施方法を確認しましょう。

カスハラに備えた企業対応
カスハラが発生する前に、企業として適切な準備を整えておくことが重要です。事前の備えにより、従業員が安心して対応でき、組織として一体的に対応できる体制を構築できます。
基本方針・基本姿勢の明確化と周知
企業として、カスハラに対する基本方針や姿勢を明確にすることが第一歩です。
▼対策例
- カスハラから組織として従業員を守るという基本方針を策定する
- 経営層からのメッセージとして、全従業員に方針を発信する
- 就業規則や社内規程に明文化する
- 社内イントラネット、ポスター、朝礼などで継続的に周知する
▼対策のポイント
企業の姿勢が明確になることで、従業員に安心感が育まれ、トラブル事例や解消に関して発言しやすい環境が生まれます。実際に、経営者自らメッセージを発信したことで、カスハラ対策への取り組みが加速した企業もあります。
相談対応体制の整備
カスハラに遭遇した従業員が、すぐに相談できる体制を整備することが必要です。
▼対策例
- 一次的な相談対応者を決定する(相談者の上司、現場監督者など、物理的・心理的距離が近い役職者)
- 相談窓口を設置し、全従業員に周知する
- 社内関係部署(人事労務部門、法務部門など)や外部関係機関(弁護士、産業医など)との連携体制を構築する
- 対策推進チームを設け、基本方針の作成や再発防止策の実施を取りまとめる
▼対策のポイント
相談窓口は、実際にカスハラに直面したときだけでなく、カスハラに発展しそうな場合や、不当クレームに当たるか判断がつかない場合も含めて、幅広く相談できるようにすることが重要です。また、相談した従業員のプライバシー保護措置を講じ、不利益な取扱いをしないことを明確にしておく必要があります。
対応方法・手順の策定
カスハラを受けた際に、慌てず適切な対応が取れるよう、対応方法や手順を事前に定めておきます。
▼対策例
- 顧客や取引先への具体的な対応フローを作成する
- カスハラに該当するかどうかの判断基準を明確化する
- 社内での情報共有・エスカレーションのルールを定める
- 記録・報告の方法を標準化する
- 弁護士への相談や警察への通報を検討すべきタイミングを明示する
▼対策のポイント
業種や業態、企業文化、顧客との関係などによって対応方針は異なりますが、自社の業務内容や対応体制に合わせて、あらかじめ対応方法例を準備しておくことが重要です。
従業員の教育・研修
社内対応ルールや基本方針について、従業員への教育・研修を実施します。
▼対策例
- 顧客対応を行う従業員向けの研修を実施する
- 階層別に、相談対応者(上司、現場監督者)、経営層に対しても研修を行う
- カスハラの定義、具体例、判断基準を共有する
- ロールプレイングを通じた実践的な訓練を行う
- 定期的にマニュアルの見直しと更新研修を実施する
▼対策のポイント
研修では、カスハラに該当する行為とそうでない行為の違いを明確に理解させることが重要です。また、現場での初期対応がカスハラに発展させないための鍵となるため、傾聴姿勢や適切な言葉遣いなど、クレーム初期対応のスキル向上もあわせて行うと効果的です。
カスハラ発生時の企業対応
実際にカスハラが発生した場合、迅速かつ適切に対応することで、被害を最小限に抑えることができます。
事実関係の正確な確認と事案への対応
カスハラと思われる事案が発生した場合、まず事実関係を正確に確認します。
▼対策例
- 顧客や従業員からの情報を基に、確かな証拠・証言に基づいて事実を確認する
- カスハラの該当性を判断する(要求内容の妥当性、手段・態様の相当性を検討)
- 確認した事実に基づき、対応方針を決定する
- 商品に瑕疵がある、またはサービスに過失がある場合にのみ、謝罪や商品の交換・返金を行う
- それらがない場合は、不当な要求には応じない
▼対策のポイント
複数名または組織的に対応できる体制を整備し、個人に対応を任せきりにしないことが重要です。暴力行為などに対しては、従業員の安全を最優先に確保し、状況に応じて弁護士や警察と連携します。
なお、電話を通じてカスハラ被害に遭った場合の対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
従業員への配慮の措置
カスハラ被害を受けた従業員に対して、適切な配慮を行います。
▼対策例
- 従業員のメンタルヘルス不調に対して、産業医、産業カウンセラー、臨床心理士などの専門家に相談対応を依頼する
- 定期的なストレスチェックを実施する
- 必要に応じて、配置転換や休暇取得などの措置を検討する
- 被害を受けた従業員に対する不利益な取扱いをしない
▼対策のポイント
カスハラによる従業員の心身への影響は深刻です。早期に専門家のサポートを受けられる体制を整えることで、メンタルヘルス不調の悪化や休職・離職を防ぐことができます。
再発防止のための取り組み
発生した事案を分析し、再発防止策を講じます。
▼対策例
- 社内事例を収集・分析し、傾向やパターンを把握する
- 事例を踏まえたカスハラ対応マニュアルの見直し・改善を行う
- 社内研修に事例を活用し、対応力を向上させる
- 必要に応じて、業務フローやサービス提供方法の改善を検討する
▼対策のポイント
同様の事案が再発しないよう、組織全体で学びを共有し、継続的に改善していくことが重要です。
カスハラ予防のための企業対応
カスハラの発生そのものを減らすための予防的な取り組みも重要です。
カスハラの発生を能動的に把握する仕組みづくり
カスハラの兆候を早期に発見し、深刻化する前に対応できる仕組みを構築します。
▼対策例
- 顧客対応の記録を義務化し、カスハラの兆候を早期に発見する
- 定期的に現場の従業員からヒアリングを行い、潜在的なカスハラ事案を把握する
- 通話内容を録音・文字化するシステムで顧客とのやり取りを記録し、定期的にチェックする
- クレーム内容や対応時間などのデータを分析し、カスハラの傾向を把握する
▼対策のポイント
カスハラに該当するかどうか個別の従業員では判断できず、言い出せずに黙っているケースも少なくありません。定期的なヒアリングや相談しやすい環境づくりにより、従業員が「自分が悪かった」と勝手に判断して抱え込むことを防ぎます。
5. 電話のカスハラ対策なら「DXでんわ」
電話対応は長時間の拘束や繰り返しの暴言など、カスハラが発生しやすい業務シーンといえます。従業員を守りながら適切な顧客対応を実現するためには、通話内容を録音・文字化でき、いち早く状況を把握できるシステムの活用が有効です。
メディアリンクが提供する自動音声応答システム「DXでんわ」は、カスハラ対策の観点で役立つ以下のような機能を備えています。
▼DXでんわのカスハラ対策機能
- 全通話の自動録音:すべての通話を自動で録音し、クラウド上で安全に管理。カスハラ被害の証拠として活用できる
- 音声ガイダンス:一次対応を自動化することで、従業員が直接カスハラ電話を受けるストレスを軽減
- AIによる要約:録音内容をAIが自動で要約するため、音声を聞かなくても内容を把握でき、記録として残せる
- 着信履歴の一元管理:すべての着信を記録・管理できるため、繰り返しカスハラを行う相手を特定しやすくなる
- 営業時間外対応:営業時間外の電話にも自動で対応し、翌営業日に確認できる
DXでんわは初期費用0円、月額2,980円から導入でき、最短3日で運用を開始できます。また、14日間の無料トライアルも用意されているため、まずは自社の電話対応でどのように活用できるか試してみることが可能です。
電話でのカスハラ対策は、従業員の心理的負担を軽減し、証拠を確実に残すことが重要です。DXでんわを導入することで、カスハラへの備えを強化しながら、電話対応業務全体の効率化も実現できます。
よくある質問
カスハラに対する対応は?
カスハラ対策は、「事前の備え」「発生時の対応」「予防」の3つの観点から取り組む必要があります。事前の備えとして、基本方針の明確化、相談体制の整備、対応マニュアルの策定、従業員研修を実施します。発生時には、事実確認を行い、組織的に対応しつつ、被害を受けた従業員へのケアも行います。予防策としては、顧客対応の記録や早期発見の仕組みづくりが重要です。
カスタマーハラスメントに対する企業の責任は?
企業には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があり、従業員を守るための措置を講じる必要があります。また、2025年6月に改正された労働施策総合推進法により、2026年中にカスハラ防止措置が雇用管理上の措置義務として施行される予定です。対応を怠った場合、従業員から損害賠償請求を受けるリスクがあります。
カスハラが多い業種は?
カスハラは顧客対応が多い業種で発生しやすい傾向があります。小売業、飲食業、宿泊業、コールセンター、医療・介護など、対面や電話での顧客対応が多い業種で特に注意が必要とされています。
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